【前章】インターネット句会のスタート(2011年【春】〜2014年【秋】)

私の会社時代の友人7人(男4、女3)が集まって2010(平成22)年3月に句会【こしの会】を立ち上げました。句会と言っても、「インターネット句会」形式で、私が「書記」に選ばれ春夏秋冬それぞれ年4回に分けて期限内に好きな数だけ書記宛に投句します。皆さんからの句が集つまったら「投句表」を作成して会員にメール配信します。会員はその投句の中から好きな3句を「選句」してもらいます。

私はこの【こしの会】が発足した1カ月前の2月に【現代俳句協会】のインターネット句会に雅号「翆敏」として登録会員にもなっておりました。

2010年に『翠敏四季句雑詠綴』という題名で自句集を発刊していますので、ここでは2011年「春」以降のインターネット句会で選句された作品を集めて「選句集」として纏めてみました。

それぞれの句の下の■のところで、この句が生まれた背景/経緯を簡単に書き添えておきます。尚、俳句の後の( )内の数字は(選句得点)を示しています。

2011年【春】

○ 明日めざせガレキの山に鯉のぼり(1)

■3・11の後の作。

2011年【夏】

○ 釣りバカは雨が降っても山女追い(1)

■伊那に単身赴任していた時、釣り好きに連れて行って貰った高遠の渓流にて。

○ 自慢ごと蕗の煮付けぞ妻の味(1)

■本当に妻の煮物は美味しいのです。

○ 不忍やしのび行かせる蓮の花(1)

■毎年、地元の高齢者クラブが「早朝ウォーク」で不忍池の蓮の花を観賞しています。

2011年【秋】

○ 仏前に供えし林檎ぼけになり(1)

■私は毎朝仏壇で読経をしていますが、美味しそうだったリンゴがいつの間にかぼけに。

2011年【冬・新年】

(選句された句なし)

■ 選句ゼロは初めての体験でガックリでしたが、この年、何となく俳句の世界で私はスランプ気味でした。それは3・11のせいかも知れません。

2012年【春】

○ 水とりや鯖も一緒に奈良へゆき(1)

■ 「水とり」とは3月2日 奈良・東大寺二月堂での「お水取り」の儀式が行われるが、その水は福井県・若狭神宮寺から送られる。若狭湾は鯖の産地。

○ 土膨れ芽を覘かせて春の雨(1)

■一番最初に土を盛り上げて顔を出すおはクロッカス?

○ 春風にまつ間程なきひらりなり(1)

■桜には風が大敵なのだ。

○ 日が落ちて夕餉のけむり山がすみ(1)

■これは長野県・高遠の山あいでの体験。

○ あぜ踏めば水もを揺らす蛙の子(1)

■伊那に単身赴任していた時の作。早朝に散歩に出て畔を踏むと水田の水面がパーット波打つのです。私が「塩の道・一人行脚」で通過した長野県・辰野市の夕母屋旅館の前にこの句の碑が立っています。

2012年【夏】


○ 駒型の姿ゆるみて田植えどき(2)

■ 伊那に単身赴任の時に地元の方から教わったのですが、木曽駒ケ岳の斜面にできる雪の駒型が溶け始める頃に田植えが始まるのだそうです。

○ 風さがし妻のえり元夏は来ぬ(1)

■かみさんは和服が良く似合うのだが、夏のある日、暑くて襟元にチョッピリ汗がにじんでいました。

○ 紅牡丹首切り恐し朝の庭(1)

■夏の朝早く庭に出ると、冷たい空気が気持ちい。しかし大きな牡丹がポロリと地面に落ちていてゾットします。

○ でで虫の光る直線重き路(1)

■でで虫とは「かたつむり」。彼が歩いた後には線が残り、それが太陽光で銀色に光って見えるのだ。

2012年【秋】


○ 畦に寝る仕事納めの案山子かな(3)

■「現代俳句協会」インターネット句会に於いて1055句中6得点でなんと9位にランキングという快挙。しかし「仕事納め」は冬季語で「案山子」は秋季語でこの句は「季違い」という人もいますが、案山子さんの仕事納めは明らかに秋ですよね

○ 秋祭り慣れぬ手つきで男帯(2)

■地元の秋祭りの時の一コマ。いつも男帯の巻き方を忘れてしまって往生している私の姿です。

2012年【冬・新年】


○ 母癒えてほっと眺める冬桜(1)

■母が健在だったころ、一緒に冬の小石川後楽園を散歩した時の句。

2013年【春】


○ 東風吹かば畦にただよう土香り(1)

■「東風ふかば匂いおこせよ梅の花 主なしとて春な忘れそ」菅原道真の歌を真似たい気持ちから生まれた作品。


○ 初節句ケーキの上に鯉のぼり(1)

■孫との初節句、この鯉のぼりはポリポリと食べられました。

○ 春嵐鼻をくすぐり目に涙 (1)

■かみさんの花粉症は可哀想な位でした。


○ そわそわと無縁坂下れば花盛り(1)

■無縁坂を下るとそこは不忍池。咲き具合はどの位かと気持ちも落ち着かないのです。

2013年【夏】

○ ごきぶりめスリッパ捜しで取り逃がし(1)

■夏の良く見るシーンだ。私の場合、命中打率は8割位だろうか。

○ 岩魚刺し酒を注しつつ差し向かい(1)

■「さし」を使った「ダジャレ句」。それにしてもチョット香ばしい味があるか?

○ 水遊び泣いたカラスがもうはしゃぎ(1)

■これも「ダジャレ句」か? 孫と遊んでいて「泣いたカラスがもう笑った」をダブらせた。

2013年【秋】

○ 猫じゃらし石の割れ目の五六本(1)

■近所の石段を上っている時の句。この石段は普段あまり人が通らない。

○ 新涼や隣家の音が遠くなり(1)

■ちょっと涼しくなると窓を閉めてしまう。すると近所の音が遠くなる。

2013年【冬・新年】

○ 初空やビルの谷間に富士の山(3)

■冬 文京シビックセンターの展望階に上がった時に見た富士山。

○ 初詣賽銭の音高らかに(1)


■この年は願い事ありいつもより賽銭を多くしたのだが、ガラガラと賽銭箱に当たる音も大きかったように感じたのです

○ 雪明り読経の声の冴えわたり(1)

■朝 空気が凍りついたようで、読経が突きささるように響きます。

2014年【春】


○ 友去りて葉だけ残る桜餅(1)

■友が去っていった後に桜餅の葉っぱだけが菓子皿に残っている寂しさ。

2014年【夏】


○ はかなさや烏瓜花世を写し(1)

■烏瓜の白い花が咲いているが、現世をそのまま表しているようです。

○ まろび寝の赤子にくちずけ秋近し(1)

■ごろっと丸まって寝ている孫の姿が無性にかわいい。チュっとしてしまいました。

○ 嵯峨野ゆく竹林を鳴かす青嵐(1)

■京都・嵯峨野の「竹林の道」を歩いた時の作。

2014年【秋】

○ 小走りに熟れ銀杏の路地をぬけ(2)

■文京区の花は「ツツジ」で木は「銀杏」。東大を中心に沢山の銀杏の木があります。

               <前の章 完>


【後章】句会「紅楼会」のスタート(2014年【冬】〜2017年【冬】)

これまで5年続けてきたインタネット句形式の【こしの会】を3ヶ月に一度お互いに顔を合わせての句会形式にしようと意見がまとまり【紅楼会】と命名、2015年3月2日に神田・学士会館の中華飯店「紅楼夢」にて第1回目の句会が開かれました。

新ルールとして投句は各自5句までで、新たに「書記」を選任し、指定期限までに書記宛に投句し、会員から投句が出揃ったらメールで「投句表」を会員に送り、会員は句会の日に「選句」した5句(座長は6句)を持ち合う。句会では持ち合った句を「披講係」(順番制)が読み上げ、その結果選句得点数を書記(天盛係として)が発表する、ということになりました。

ということで、それ以来冬・新年編/2月、春編/5月、夏編/8月、秋編/11月に句会が開催されて来ております。この「紅楼会」にて選句された自句を綴ってみました。

2014年【冬・新年】

○ 何一つ動かぬ冬の神田川(2)

■1月の早朝、一人ウォーキングに出て飯田橋付近での神田川の姿です。

○ 枯れ木透く世見わたして八十の歳(1)

■句会の座長が80歳になられたお祝いにと作った句。80歳ともなれば世の中お見通しと、ジ〜ット観ているお姿です。

○ 芭蕉忌や万年橋に叩く風(1)

■隅田川のほとりにある「芭蕉庵」のすぐ脇に「小名木川」が流れており「萬年橋」が掛かっていますが、そこを吹き抜ける吹き晒しの風がやけに冷たいのです。

2015年【春】

(選句された句なし)

■ 全く残念な結果です。この時に投句した5句を詠んでみると確かにつまんない句ばかりでした。
その中の一つをここに“悪い句”の例として上げておきます。

○ たらの芽や見てくれ悪し味はよし

2015年【夏】

○ 古書さがし乾いた軒に江戸風鈴(2)

■近くの神保町に古本を買いに行ったときの句。

○ ビル間抜け強き西日の神田川(1)

■神田川が西の早稲田方向から来て大きく南に曲がって飯田橋方面に向かう「大曲」
付近での句。

2015年【秋】

○ 七輪に松茸のせて冷おろし(1)

■ 「冷おろし」とは、冬にしぼられた新酒が劣化しないように春先に火入れをして貯蔵し、一夏を越して外気と貯蔵庫の温度が同じくらいになった頃、冷したままで飲む秋の酒。松茸と冷おろしとは真に贅沢な句です。

○ 秋水の行く悲しみや梓川(1)

■秋の紅葉が終わった頃、安曇野を歩いたときの句。

2015年【冬・新年】

○ お飾りの藁の匂いの懐かしき(2)

■正月の前に買ってくるお飾りの藁の匂いが畳生活の昔を思い出させてくれます。

○ 除夜詣ちびる賽銭倍願い(1)

■賽銭の額がいくらもないのに、願い事がでか過ぎるのが常。このとき世の中では「倍返し」という言葉が流行っていた。

○ 石蕗(つわ)の花葉影の先の仏たち(1)

■小道を歩いていたら地に張り付くように葉が広がっていて、その隙間から可憐な黄色い小さな花が目に入った。その先に無縁仏のような地蔵群が見えた。家に帰って草花辞典で調べて「石蕗(つわぶき)」ではと句にしましたがこの花名は確かではないかも知れません。

2016年【春】

○ 朝靄の水面に光る胡蝶かな(2)

■朝靄が次第に取れてゆく湖面に舞うチョウチョが陽の光でキラキラと見えました。

○ 7合目ほっと吐く息八重桜(1)

■秩父の里山を登って7合目付近に到着すると八重桜が出迎えてくれました。

○ 雨激し庫裏に寄り添う鞠アジサイ (1)

■長野県・伊那谷のアジサイ寺で有名な「神妙寺」にての句。母と長野墓参の帰り道に寄った神妙寺で夕立のような大雨に遭遇したのです。

2016年【夏】

○ 五月雨や空き家の軒に迷い猫(2)

■鯖街道を歩いているときの一シーンです。

○ 夏大根おろしでピリリざる二枚(2)

■木曽駒ケ岳の登山道入り口にある蕎麦処「行者そば」での作。

○ 新牛蒡老いた歯によし香りよし(1)

■新牛蒡は太さがまだ細く、やわらかくて色が白い。

○ 新ジャガや部屋いっぱいに日陰干し

(1)

■郊外に住む親戚は畑を借りて野菜や土物を作っているが、土に戯れる目的で孫を連れて畑にお邪魔した。帰りに大量の新ジャガを頂いてきたが、それを部屋一面に新
聞紙を敷いて干しました。

2016年【秋】

○ 立ちて居て寝てそれぞれの待つ月や(2)

■ 「立待月」は陰暦8月17日、「居待月」はその翌日、そして「寝待月」は翌々日、昔の人は1日1日変わりゆく月を楽しんでいたのですね。

○ 彼方より風に乗っての運動会(2)

■遠くから運動会のスピーカーからの音が風に乗って聞こえて来る。秋だなぁ!

○ 二家族年に一度の墓参り(1)

■毎年弟家族は名古屋から、私たちは東京から長野・西尾張部の菩提寺「光蓮寺」に集まって墓参りをしています。

○ 秋の空風に吹かれてボブディラン(1)

■ボブディランがノーベル賞を受賞しました。彼のヒット曲は「風に吹かれて」です。

2016年【冬・新年】

○ 雪吊りや四方に張りてゆるぎなし

(3)

■ 冬のある日、目白の「新江戸川公園」を訪ねた時、職人が池の周りの木々に「雪吊り」を縄で張っておりました。

○ 寺巡り暮れゆく庭に返り花(3)

■谷中の寺町を歩いている時の出来事でした。

○ 古本を売りし別れに夕時雨(2)

■神保町に本を売りに自転車で出た時、生憎にも雨に遭遇。我が本との別れ涙か?

○ 百八つ鐘の音数え札納め(1)

■大晦日の夜、年越しのお護摩焚きに向かう途中で除夜の鐘の音が響いて来ます。

2017年【春】
○ ジャズを聴く路地の喫茶に春の宵(2)

■神保町の路地裏にジャズのレコードを聴かせる喫茶店があります。

○ 君の名は思い出せずに木瓜の花(1)

■「ダジャレ句」か。この年 映画「君の名は」が大ヒットしたのを引っ掛けて私の痴呆症予備軍を句にしてみました。

○ ゆく春やゆっくり廻る鳶一羽(1)

■のどかな春日和、郊外を歩いて居た時、鳶がゆっくりと輪を描いて飛んでいました。

○ この香り四方キョロキョロ沈丁花

(1)

■沈丁花の香りが大好きだ。この匂いが鼻を掠めると、どこからか?と探してしまう。

2017年【夏】

○ 呆然と堤防に立つ夏帽子(1)

■ この夏、九州を襲った豪雨災害、ある日のニュースで呆然と堤防に立って遠くを見つめている姿が印象的だったのです。

○ 父の日の無口の父へハイボール(1)

■ 父の日(6月第三日曜)、父が好きだったニッカ・ウイスキーのハイボールを作って仏壇に乗せ、心の中で「乾杯」と言っていました。

○ デパ地下に入りて暑さを避けにけり(1)

■かみさんと御徒町の「松坂屋」デパートへ。中に入ると二人で「あ〜〜気持ちいい!」と顔を見合わせていました。

2017年【秋】

○ 秋惜む焚き火の後の焦げ手紙(4)

■ 家の前で焚き火をした。しっかりと全部燃え尽きたと思っていたが、焦げた手紙の一部が残っていて、その文字があの時を思い出させていたのです。

○ 地下深き駅の工事や草の絮(わた)(1)

■ある集まりの会で東京駅地下工事現場の視察の機会を得た。地下に入ると天井の隙間から太陽光線が鋭く差し込んでくるが、その光の中に白い小さな虫のようなものが飛散していた。それはきっと雑草から飛んでくる「草の絮」なのだろう。

○ 運動会夢中にさがす孫の位置(1)

■孫の幼稚園の運動会に行ってみた。興味は孫の出る出し物だけで、その時は一生懸命に孫の姿を探し求めていました。

2017年【冬・新年】

○ 口喧嘩ひとり悔やんで日向ぼこ(2)

■ かみさんとチョットした事で口喧嘩、その後反省しながら日向ボッコ。

○ しぐるるや赤信号のうらめしき(2)

■さぁっと冷たい雨が降り始めたが、先に見える信号が赤に変わった。早く青になれ。

○ 静けさやモノクロ世界外は雪(1)

■家の前は「石坂」、その坂が雪で真っ白になった。もう車も走らない静かなモノクロの世界に変わっていました。

   <後の章   完>

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