専門学校での講話: 「コミュニケーション・スキル」、「人事考課」、「競争戦略」
先が見えない時代の中で、これからの教育はどうなってゆくのだろうか。 インターネットが生まれて20年ほどになるが、「どこでも、いつでも、だれとでも」の時代を迎え、若者はスマホ族となり引きこもり現象を来し、ますます「コミュニケーション能力」を低下させている。そして6月、夏のボーナスを前にまたまた「人事考課」をせねばならない時期となった。ところで今のご時勢、未来がどうなるか分からない時代に専門学校として持続可能(サステナブル)である為の「競争戦略」をどう立てたらよいのだろうか。悩み多き教育の世界である。 先日、専門学校の教職員の方々を前に、3つのテーマ、「コミュニケーション・スキルを高めるには」と「人事考課の再考」および「競争戦略の立て方」について講話を行いました。以下はその時の骨子に一部加筆し改めて纏めたものです。 2015年6月10日(水) 16:30〜17:30 専門学校・階段教室 聴講者 52名 みなさん、お疲れ様です。今日はこれから1時間ほど、私のお話を聞いていただきますが、今日の3つのテーマはそれぞれ、皆さんはこれ迄にも何度となく研修や講演を聞いておられて、「何を今更」の感があるかも知れませんが、実は時代の変化とともにこれらのテーマの捉え方も変わっており、今日はその辺をお話したいと思います。それでは1つ目のテーマから始めましょう。 |
【1】「コミュニケーション・スキル」を上げるには 「ITの進化」は私たちの周りに「情報」を氾濫させ、またコミュニケーション・ツールも多岐にわたり自分で自由にツールを選択できる時代です。電車の中でも8割の人が、スマホやIパッドに見入っています。事務所内で席が隣同士なのに何とスマホでメールのやり取りで会話している時代です。当然に「コミュニケーション能力」は低下してしまいます。 それでは「コミュニケーション・スキル(以下CS)」を高めるにはどうすればいいのでしょうか。やはりCSの基本は「ホー・レン・ソー」でしょう。しかし情報が氾濫している中で、そしてITのおかげで情報伝達スピードがUPした環境下で、自分の存在感を高める「対人能力」が大切になって来た時代にどのように「ホー・レン・ソー」に対応したらよいのでしょうか。 ホー(報告): 悪い情報ほど早く報告する。 これは分かっているが、なかなか行動にとれないのです。なぜなら、悪い情報は自分で出来るだけ悪さを小さくしてから上司なりに連絡しようと知恵が働く為です。これが仇となり逆に問題を大型化させる(更に悪化させる)事になってしまうからです。 レン(連絡): 関係者にはもれなく伝える。 この為にはメールの場合なら「同報」や「CC」の上手な活用です。この機転の効いた情報伝達はグループ内で情報を皆さんなで共有するという結果を齎し、いざ問題が発生した時にでも関係者で対策会議を開く際に「情報を共有」している効果が発揮されるのです。 ソー(相談): ヒントを貰え。 上司や先輩に解決案を教えてもらうという意識では無く、ヒントをもらうという意識を持って相談するという態度が大事です。このように変化している時代ですから、先輩なり上司がどんな問題に対しても正解を持っているのが難しい時代ですから、最後は自分で解決策を考え出すという『自分で考える力』を付けましょう。 ( 参考資料:京都府若年者就業支援センター「コミュニケーションスキル」) これらの点に注力するだけで、今よりCSがグットUPするはずです。すぐに実行に移してみてください。よく言われる事ですが、CSがある人は「組織の中で自分の位置や役割をしっかりと把握している人」だそうです。 それでは“組織”という言葉が出てきましたので、次のテーマ「人事考課」のお話に移りましょう。 |
【2】「人事考課」について 実はこのテーマも「何を今更」と思われるかも知れません。6月に入りましたので丁度皆さんが「人事考課」をする時期になっていますので、「人事考課」とはどうゆうことなのかをもう一度レビューしてみましょう。人を評価するという事に関して、昔ながらの「他の人と比較して成績をつける」といった判定をしている人がまだ見受けられますので、正しい人事考課とはについて話をしてみたいと思います。 「人事評価」という表現もありますが、「人事考課」と違いがあるのでしょうか? 「人事考課」と「人事評価」には違いは無いそうですが、歴史的には「人事考課」のほうが古く奈良時代まで遡るそうで、当時勤務の評価や任用試験を意味する「考課令」からきていると言われています。最近になって能力開発、移動配置、業務改善に役立てる目的で考課を行う事を「多面人事評価」と言っています。という事は「考課」と「評価」の違いを、昔は賃金などの処遇面への反映(査定)を中心とした狭義の評価を「人事考課」といい、人の育成に重点を置いて広義で捉えたものを「人事評価」と言い分けることができるかもしれません。そして昔の「人事考課」は他人と比較してどうかを判定してもので、最近の広義の「人事考課」(つまり人事評価)は、あらかじめ“決められた基準”と比較してどうだったかを判定し、その結果を本人にフィードバックするという考課法なのです。この絶対評価によって「自己開発意欲」を刺激し、組織一体が成長してゆくことを期待している訳です。 |
さて、仕事に求められる能力、つまりは自分の努力次第で伸びる能力を「職務遂行能力」といい「保有能力」と「発揮能力」から出来上がっております。それぞれの能力の詳細は<左図>をご覧ください。
この能力をスポーツでサッカーをする場合を例に挙げて考えると分かり易いかも知れません。 |
サッカーをする場合、サッカーとは何か、どんなゲームで、ルールはどうなっているかが【知識】に当ります。しかし知識があるだけではサッカーは出来ません。ボールを前に蹴る【技能】、そして45分/45分の試合を続けられる【体力】が必要です。この知識/技能/体力を「基本的修得能力」と言います。しかしこれが揃っていれば良いかといえば、それだけではよいゲームは出来ません。 よいゲームをする為にはよいパスをどんな作戦でやるか、その場その場で適切な【判断】が必要なのです。そしてこの判断は【経験】を積むことでレベルアップする能力で「精神的習熟能力」と言います。この2つの能力を纏めて「保有能力」といいますが、これらの能力が高ければ試合に勝てるかといえば、そうは行きません。これらの能力を最大限に発揮しようする【気持ち】が必要なのです。これを「発揮能力」といい、この保有能力と発揮能力が掛け合わさってゲームを勝利に結びつける能力(職務遂行能力)が最高潮に発揮されるのです。 このように「職務遂行能力」はさまざまな要素を含んでいますが、それぞれを一つの尺度で測るのは難しいことです。そこでこれらの要素を3つの項目、つまり「能力考課」、「勤務態度(情意)考課」そして「成績考課」に分けて判定します。つまりは、常に腕を磨いているか(能力)、そして一生懸命に仕事に取り組んでいるか(勤務態度)、その結果として高い成果を上げて来られたか(成績)」を自分の作った基準(決められた基準)と比較し判定することが正しい「人事考課」なのです。 (参考資料:Kana3の評価の疑問) |
さてちょっと横道に逸れますが、以上述べたのは教職員の評価に就いてですが、何と昨今では“学校自身も評価を受ける時代”になって来ていることはご承知の通りです。高い学校評価を受ける為には「ワーク・エンゲージメントを高い状態にすること」だと言われています。そこで「ワーク・エンゲージメント」とは一体どんなものでしょうか? 学校が皆さんで作った同一の目標に向かって熱心に取り組み(没頭)、仕事から活力を得て生き生きと生活し(活力)、日々誇りややりがい感を感じながら(熱意)働いて行けば、自ずとそんな学校には学生たちも集まって来て、外から見た第三者による学校評価も高いものになる事でしょう。この3つの要素「没頭」、「活力」、「熱意」が揃っている状態を「ワーク・エンゲージメントが高い状態」と定義されています。 それでは、上述の「学校が皆さんで作った同一の目標に向かって熱心に取り組む」為に、その“同一の目標”とは一体どうやって創ることが出来るのでしょうか。それでは本日最後のテーマ「競争戦略の立て方」のお話に入って参りましょう。 |
【3】「競争戦略」の立て方(独創性を高めるには) 日本の18歳人口が年々減ってゆく中、大学は門戸を開放しており、専門学校が置かれたる立場は厳しいものがあり、毎年学生獲得戦争に直面していると言えましょう。つまりは大学や競合他校との戦いに打ち勝ってゆかねばならず、その為には競争に勝つ為の「戦略」が必要なって来るのです。 ところで「戦略」とはどんなものでしょうか? それは「“違い”をつなげてゆくこと」です。 それでは“違い”とは何でしょう? それは「独創性のあるもの」です。 「競争に勝てる戦略」とは、“「そんなばかな」の発想から生まれ、後になって「なるほど」と思わせるような施策”が競合と戦って“勝てる戦略”なのです。 (参考:吉原秀樹著「バカな」と「なるほど」PHP研究所) さて、以前の教育では全員に一つの正解を与えてやればいいという教え方でしたが、昨今は先生も上司も学生もこの先が(つまり未来が)どうなるか分からない時代なのですから、これからの教育では、学生一人ひとりに未来を自分で作ってゆく力をどう育むかが大切なのです。つまりは「未来を想像する力」を育んでやるということです。その力を育む為の5つのキーワードを次に挙げましょう。 (参考:リクルート社 雑誌「Career Guidance」5月号) |
@ 未来を思い描く 自分で未来像を描くことで、そこに向かって現在からその未来像までのストーリーを創る。誰かに押し付けられて学ぶのは苦痛ですが、自分の未来像が動機なら、この学びはすごく楽しいはずです。 A 経験から学ぶ 教科書から正解を学ぶのではなく、五感を通じて自分の経験から学んでゆく。経験を重ねて成長すれば、その人にとって世界の見え方が変わって来ます。あのとき自分は何を感じ、どう考え、なぜあのようにしたかをその都度振り返り(リフレクション)、自分を客観的に捉える能力をつけることが大事なのです。つまりもう一人の自分が存在することで、これを「メタ認知能力」と言います。 B 協働する 不確実な時代には一人で何かを完結することは難しいのです。思考、文化、価値観が異なる相手とお互いに認め合い、一緒に何かを創り上げるコラボレーション・スキルを高めることです。これも経験からしか学べません。 C 関係の質を高める 組織の中でお互いをよく理解し、自然と声を掛け合ったり、助け合ったりできる関係を築くということです。組織内で関係が高まると個人の思考の質も上がり、そして何より組織の中で働くことが楽しくなるのです。 |
Dストーリーを語り合う
仲間と共に未来を創ろうと思ったら未来への思いを共有することが大事です。左図をご覧ください。 一つのグループが未来をストーリーとして共有する姿が描かれています。まずグループの誰かがストーリーを語ります(ストーリーテリング)。それを聞いた他のメンバーがそのストーリーを聞いて何を感じたかを語ります(リストーリー)。そうして最終的にグループとしてのストーリーを創り上げるのです。このストーリーは具体的な内容でなければなりません。 一例をあげて説明しましょう。 例えばある学校が「新しい学校像を創ろう」とテーマを持った場合に、
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「この学校を『ノンアレルギー・ディッシュ・レストラン』にして2階を調理室兼実習室にして2年生が料理を作り、他の部屋では1年生が素材の調達およびレストランの準備・後片付けなどを役割として展開し、そこで経験を積んだ卒業生は支店開きチェーン展開を図ってゆく学校にしたい」とストーリーを語ります。 どうでしょう? このストーリーに対して「自分なら」の意見が述べやすくはありませんか? そのように議論を重ねてその学校の未来像を皆んなで作れば、きっとうまく進行して行き希望が現実となりましょう。 未来が見えない時代ですから、先生自身が生徒の前で未来を描いたり、経験から学んだり、人間関係の質を高めて見せることが大事な時代だと言えましょう。周りが変化しているのですから、私たち一人ひとりも変化に対応してゆかねばならないのです。 200年以上も前の話ですが、<ダーウインの名言>が頭をよぎります。 『最も強いものが生き残れるのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残ることが出来るのは、変化できる者である。』 以上で本日の私のお話を終わります。ご静聴ありがとうございました。 <完> |