テーマ 『企業不祥事と継続企業の条件』(副題:21世紀はこころの時代)

スピーチ骨子

スピーチ日時: 2005年8月31日(水)

会場:学校法人「織田学園」階段教室

スピ−カー: 丸紅インフォテック株式会社 顧問 宮原一敏

皆さん今日は! ただいまご紹介頂きました「宮原」でございます。今回織田理事長様のご好意によりまして、皆様の貴重なお時間を頂き、スピーチをさせていただく機会にめぐまれましたこと 深く御礼申し上げます。これから1時間弱のお時間を頂きまして、テーマ【企業不祥事と継続企業の条件】についてお話したいと思います。

今日のお話は お手元にお配りしました「レジュメ」裏表2ページに沿って行く予定ですが、なるべく硬い内容はサラットすませ、「肩の張らないお話」に終始したいなと頑張りますが、時々本筋から脱線するかも知れませんが、その際はご容赦のほどお願いします。


【1】 自己紹介

レジュメの【1】番に「自己紹介」となっておりますが、先ほど(福嶋室長)さまから経歴についてご説明頂きましたが、私は理工系(電気専攻)の大学を卒業し、商社に入り、海外駐在生活を体験し、コンピュータ関連機器のメーカーにて工場経営を経験し、その後 常勤監査役の立場から会社を監査する仕事も体験できました。今日のお話は その常勤監査役の時代にある勉強会にてスピーチした内容がベースになっております。

それでは 本日の本題【企業不祥事と継続企業の条件】のお話に入らせて頂きます。

【2】 多発する企業不祥事

(1) 何の企業群だろうか?

野村證券、日本航空、東海銀行、ヤクルト、大和銀行、ミドリ十字三菱商事 阪和銀行、日本興業銀行、ダスキン

皆さん! 何の企業群だと思われますか?@平成元年ころの大学生就職先人気ランキングでしょうか? それともA親が子供に入って欲しい会社でしょうか? <正解>は、過去10年間で 株主代表訴訟事件を引き起こした件数の多かった企業で件数の多かった順番なのです。野村證券の6件から ダスキンの2件まで 多い順に並べてあります。すでに現在では無くなった企業、合併した企業がありますが、いずれにせよ当時では 就職出来たら羨ましがられた(名の知れた)企業ではなかったではないでしょうか。

「株主代表訴訟」とは、取締役、監査役は株主から選任されて業務を委託された立場ですが、もし利益が正しく会社に還元されていなければ、これからは株主がどんどん会社の経営者(取締役・監査役)を訴える時代が到来しているということであります。

(2) なぜ多発しているのだろうか?

それではなぜこの10年、このように【企業不祥事】が多発しているのでしょうか? その要因には次のようなことが考えられましょう。

  ◆ ボーダレス革命期

人類の進歩は18世紀―蒸気機関の発明―【第1次産業革命】、19世紀―内燃機関―【第2次産業革命】を経て、20世紀に入ってコンピュータが発明されて【第3次産業革命】といわれ、つい数年前21世紀に入ってコンピュータ同士がネットワークされて(つまりインターネット時代)一瞬にして世界中が同一情報を掴むことができ、国境がなくなった(ボーダレス)環境が生まれました【ボーダレス革命期】。この環境変化が 次々に新しいリスクを生み出し これに追従出来ずに不祥事を引き起こすケースが多発しえいるのでは?

  ◆ リスク・マネージメントの不十分

そして リスク・マネージメントに不慣れというのが 一つの原因かもしれません。このリスク・マネージメントに関しては 後でもう一度ふれます。

  ◆ リストラと空洞化現象 

1990年代 コンピュータ旋風が世界を駆け巡り、一方で日本は【バブル崩壊】の後 デフレ経済不況が襲い、それを脱出する策として日本メーカーは @ 固定経費削減策としてのリストラ そしてA世界市場で価格競争力を維持しようと人件費の安い東南アジア、中国、インドなどに生産拠点を移し日本の工場が空き家となる空洞化現象==>経験豊富な技術者の現場不在。

  ◆ 「ふとどき社員」と「まじめ社員」

この様に企業環境が不健全になると、つまり企業の内部が蝕まれ始めると、昔のように「ふとどき社員」がたまたま起した事件ではなく、むしろ「まじめ社員」が会社の為に事業現場で意図的に行った不正・違反行為が多いと言われます。


(3) 危機管理:「ハインリッヒの法則」=「1:29:300の法則」

実は「危機」というものを早くから注目していた業界があります。それは「保険会社」ですが、米国のハインリッヒ氏が「労働災害の発生率を分析」したもので「ハインリッヒの法則」と呼ばれています。

『1件の重大災害、死亡事故の背景には、29件の中程度災害があり、300件の微小災害(ヒヤット、ハット)が起きている。つまり300件の微小災害をつぶさないと重大災害を防止できない。』

これは企業に限らず、学校の経営などにも共通する危機の管理方法として参考にされては如何でしょうか。重大災害を避ける対策は 300の微小災害を見つけ出し それを潰すこと すなわち【組織における情報の透明性】が必要なのであります。

【3】 企業の社会的責任(CSR=Corporate Social Responsibility)

ちょっとお堅い話が続きますが、この【企業の社会的責任】に関して 最近あまりに雑誌、新聞などの記事に登場しておりますので、ちょっと触れたいと思います。CSRの「厳密なる定義」があるわけではありませんが;

『企業が長期にわたって存続するためには、利益をあげるだけではなく、ヒトと同じように法令を守り、環境を保全し、地域に貢献するなど、社会的な存在として活動しなければならない。』

このCSRも米国からの輸入ですが、人間中心主義の欧米型文明が行き詰まって、企業不祥事が多発して 「企業が儲けるために物を作り出し消費者に提供し続ければ例えそれが自然の破壊に結びつこうが法を守って入れさえすれば企業が豊かになるならかまわない」という姿勢(利益追求型経営)は ちょっと行き過ぎと気づいてCSR、CSRと言い出しました。その一技法に;


(1) コンプライアンス経営 =健全なる企業風土の醸成

  法令・規則の遵守 + 企業倫理、誠実性の遵守

これも米国産の言葉ですが、2002年に@米国同時多発テロ(9・11)の事前情報が充分調査されていなかったと告発、A経営破たんしたエンロンの不正簿外取引を指摘、Bワールドコムの会計不正を内部告発などの事件を通して、腐敗する企業経営を健全化に持ってゆこうと米国で言い始めた経営手法です。

日本には 昔からそもそも持っていた精神であり、何を今更の感があるのですが、この辺は 後の章【21世紀はこころの時代】のところで説明させて頂きます。


(2) リスク・マネージメント = PDCAサイクル活用

リスク・マネージメントつまり「危機管理」ですが、この解釈をあたかも危機を管理してゆくといった捕らえ方になりがちですが、実は管理が出来ないから危機が生まれるのであって、その結果として企業不祥事を引き起こしているのです。これを回避するには 「経営トップが率先して情報を開示し、社内にいつも風通しのよいコミュニケーションが保たれていることが必要」だと言うことでしょう。

一人ひとりの対策として これも米国から輸入された言葉ですが「PDCAサイクル」という技法が一時期業界で騒がれました。実はこの方法は各個人が自分の業務を正しく管理してゆくには一つの良い方法と思いますので 分かりやすい例で説明しましょう;

◆小さなPDCAサイクルの例;

『朝、その日の作業の優先度を決めて(Plan)、その順番で業務を行い(Do)、うまく行ったところとダメだったところを比較し(Check)、ダメだったところは、明日はうまく行くように改善してみる(Action)。』


【4】 継続企業(ゴーイング・コンサーン)の条件

実はこの言葉も米国産なのですが、全く当たり前のことなのですが、経済雑誌などでよく聞く言葉ですので サラット解説をしておきたいと思います。


(1)「継続企業」とは?

『会社組織を起こした以上は継続が前提である。誰も倒産を前提にして経営をすることはない。とすれば会社の状況、つまり経営成績を示す決算期の時点で もし継続が危ぶまれる事態が起きた、あるいは起きる可能性があれば、その事実とその対応策をはっきりと世間に向けて説明するということが「継続企業の条件」である。つまり会社経営側は、会社の大小に関らず、社会に対して継続の危機は早め早めに世間に対して説明する責任(アカンタビリティ)があるということである。言い換えれば、そうならないように日々透明性をもって事業を展開してゆくことになろう。』

つまり先ほどリスク・マネージメントの項目の所で説明致しましたように すなわち企業継続のためには 「組織内にいつも風通しのよいコミュニケーションが保たれていることが必要」という事です。


(2)ボーダレス革命期(インターネット時代)

これまで通りじゃ淘汰されちゃう時代ボーダレス革命期に関しては 前の項目「なぜ企業不祥事が多発するのか」の一つの要因ではないかと説明させて頂きました。ここでは このような革命期だからこそ、企業 そしてあらゆる組織体が これまでには無い新しい対応を求められていることについて説明したいと思います。

新しいリスクの発生

これまでの説明でお分かりのように、インターネット時代に合った新しい経営手法(CSR)や、新しく生まれたリスクに対する認識と対処が企業や組織体に求められています。環境保護、地域社会貢献、労務面リスク、情報を持つリスク

新しいマーケティング手法 =風評、口コミ・マーケティング

またインターネット環境の下では市場開拓の手法も従来のような高額の費用を掛けて新聞、雑誌、ラジオ、TVに広告を掲載する方法は殆ど効果がないと言われ始め、これからは;

『商品やサービスについて 周囲に口コミで伝える人を見つけ出しその人を活用する方法、つまり口コミ要員の組織化を図る。』

さていよいよ本日の副題「21世紀はこころの時代」というお話に入りましょう。

【5】 21世紀はこころの時代

ところで皆さん昨今の人間世界がおかしいとは思いませんか? 天変地異やら、人間らしからぬ事件が多発、これは何かがおかしい! 半年前になりますが、ある雑誌に印象に残る記事が載っておりました。それは「欧州型文明が遂に行き詰まってしまった」という記事でした。

(1) 欧米型文明の行き詰まり

『文明とは「大地」と「人間」の係わり合いの中で誕生してきたと言われます。ところが近代文明は「大地」を忘れ去り、大地が醸し出す風土性を忘却して暴走を続けている。資本主義のもと、人は【欲望の奴隷】と化し合理性の追求とか言って【楽】を求め 道徳は腐りきってしまいました。』

我々日本も 実は江戸時代から明治時代に変わると同時に【文明開化】などと言って西洋(つまり欧米)文化を積極的に取り入れ始めたのです。そうして日本も現在までその欧米型“物質文明”を謳歌きたのですから、「文明の行き詰まり」状態に直面しているのでしょう。

(2) これからの時代 

『人間が利益の源泉となる時代で お金に還元できない仕組みが必要。「この指止まれ型」でみんなが新しいことを少しずつやる共同体が成長してゆき最終的には きれいな分業体制になるのが理想。』   (養老孟司氏X岩井克人氏の雑誌対談より)

 これは数年前の書籍「バカの壁」で有名になった東京大学名誉教授で解剖学者の「養老孟司」氏と同じく東京大学教授の「岩井克人」氏の雑誌対談記事からの引用ですが、その記事の中で「明治維新以降 村社会や家社会が失われた代わりに会社というものが、共同体の役割を果たしてきた、つまり【会社人間】の時代だったと。従って我々の年代層では「うちの会社」なんて言っておりました。

最近は会社そのものも変わりつつあり、また就職する若者も定年までいることを想定して会社に入るような人は殆どいないわけです。

「フリーター」人口の急増も この変化を示唆しているように思います。


(3) 日本人は「八百よろずの神信仰」、だから「こころの時代」は得意。

『日本は自然豊かな地(照葉樹林文化)で「森の民」として育み、自然の驚異(台風、洪水、地震、噴火)は一過性と考え、神の怒りが収まると、神は前にもまして自然の恵みを与えてくれると考えていた。』

一神教の西洋の近代科学は、人間の力で自然のあり方を変えてゆこうとする要素や、人間が“便利”で“快適”な生活を送るために多少の自然環境が変わってもかまわないとする考え。=「人間中心主義」、つまりこの「人間中心主義」が先ほど述べました「欧米型文明」であり、もう行き詰まってしまったということでしょう。そもそも日本人はコメを主食としタンパク質を魚に求めるのです。稲作は弥生時代に日本に入って普及したそうですが、そのときヤギやヒツジなどの家畜は入れなかったそうです。それは家畜が森を食いつぶすと考えていたからです。つまり「森の文化」を発展させたのは「日本の文化」と言えましょう。そこで我々の祖先が信仰してきた;

   ==>自然を大切にする神道(しんとう)的な生き方を取り戻そう!

「こころの時代」とは 精神的な豊かさを満たす商品やサービスが提供される時代をいいます。そして「21世紀がこころの時代」なら日本人が本来の日本人に戻れば、それがこころの時代になると信じます。

小泉首相のこころの時代構想は 日本を【観光立国】に挑戦すると表明しています。日本には@美しい四季の変化、A美しい自然、B古い伝統文化と現代文化の混在 などがあり これを宣伝して世界から観光客を呼び込むということです。現在年間500万人の海外観光客が来ていますが 2010年までにこれを1000万人にすると目標を掲げています。 

(フランス/7600万人、スペイン/5000万人、アメリカ/4500万人 イタリア/3900万人 )

(4) 21世紀は 一人ひとりが「やりがい感」を重視する。

もうこれからは 勉強して、一流大学を出て、一流企業に入って といった価値観は薄れ、個人一人ひとりが「自分は何をやりたいのか」を考え、各自が各様に価値観を持つ時代が21世紀と言えるのではないでしょうか。

      ==>だとすれば、21世紀は 益々「織田学園」の役割も重大 !

「デザイン」、「着物」、「料理」、「お菓子」、「福祉」、「幼児教育」など各分野で一人ひとりが 自分の「潜在行動力」(やりがい感、満足感)を見出すためのお手伝いをしているからであります。この言葉の背景には実は、ここに出席頂いている先生の方々、お一人お一人が そもそも現在のお仕事に「やりがい感」を持ってとり組んで頂き、そして各生徒さんの「やりがい感」を見つけ出してゆく手助けをして頂ければ きっと これからは精神的に豊かな時代になって行くものと期待いたします。

これで 私のスピーチを終わります。 長い間 ご清聴ありがとうございました。                          以上

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