面白い題である。まあ、読んで頂きたい。１月９日（日）に「江戸連１月講」として「新宿山の手七福神めぐり」が開催され午後１時にJR飯田橋駅西口に集合となった。参加者は２６人とやはり＜コロナ禍＞による巣ごもり生活が続き、その開放感からか大勢の参加者となった。

コースは神楽坂を登りきった所の【善国寺（毘沙門）】からスタートし、すぐ脇の「地蔵坂」を上り「御徒組屋敷」付近を通って２番目は【経王寺（大黒天）】を訪ねた。しかしこの講も高齢者が多いということからこの後は大江戸線の「牛込柳町」駅から２駅先の「東新宿」まで電車移動を考えてくれていた気配りがいい。この駅にて「トイレ」利用も考慮しているのである。東新宿を下車して【稲荷鬼王神社（恵比寿）】から【永福寺（福禄寿）】へ、そして通称「抜弁天」と呼ばれている【厳島神社（弁財天）】を周り６番目の【法善寺（寿老人）】へ出る。この後すぐ隣の「西向天神社」に立ち寄ったのだが、ここで何か凄い「気」を感じたのだ。まずはこの繁華街・新宿に近いところに何とも広い社寺敷地に驚かされた。そして崖っぷちに有るので敷地が三段状になっておりその片隅に立派な「富士塚」が有り、近所の子供たちの遊び場となっていた。

この富士は江戸時代に「東大久保富士」と呼ばれ『絵本江戸土産』（二代歌川広重作）にも描かれており有名だったのだろう（上図）。そして敷地の２段目に降りるとその左側に今度は「神楽殿」がありその先に「西向天神社」が控えていた。更にその先に今にも朽ち滅びんとする「大聖院本堂」が佇んでいたが、それにしても敷地が広いせいか何か纏まりのない寂しさを感じてしまう。「西向天神社」の御祭神は菅原道真公で、その為に「太宰府」の方向、つまり西を向いているそうだ。御祭神はそれ以外に「稲荷大神」、「秋葉大神」そして「厳島大神」と余りに大勢の神様を祀ったせいか、照準が定まらずして寂れてしまったのか、疑問も残る。菅原道真公といえばすぐに思い出されるのが；

＜東風（こち）吹かば　匂ひをこせよ　梅の花　あるじなしとて　春な忘れそ＞

更に奥に進むと「紅皿（べにざら）塚は駐車場の中にあります」と書かれた注意書きに惹き付けられる。早速その塚（右写真）を訪れると説明書には「太田道灌」の「山吹伝説」に登場する紅皿という少女のお墓だと言う。山吹伝説といえば、以下の歌が超有名だ；

＜七重八重　花は咲けども　山吹の　みのひとつだに　なきぞかなしき＞

説明板によれば、この歌は「後拾遺和歌集」に載っている「兼明親王」の作と言うが、さて「山吹伝説」とは、太田道灌が鷹狩でこの西向天神社の近くに来ると急な雨に遭遇し、そばのみずぼらしい家に駆け込み「箕を貸してもらえぬか」と声を掛けると、少女が出てきて箕ではなく山吹の花一輪を黙って差し出した。道灌は「花が欲しいのではない」と怒り雨の中を帰って行った。その夜道灌がこの話を家来にすると、家来の一人が進み出て、「その娘は後拾遺和歌集の中の歌になぞらえて、箕一つ無き貧しさを山吹に例えたのではないでしょうか」と言うと、驚いた道灌は己の不明を恥じて、この日を境に歌道に精進したというお話。

そんな古い歌に痺れていると、何と何と次に歌碑「新宿の女」に突き当たったのだ。（右写真）この歌碑の裏面にはこう書かれていた。「昭和４４年９月２５日『新宿の女』でこの西向天神社より２人の若者が旅立って行き、石坂まさを（作詞・作曲）と藤圭子の名は時代を刻み伝説として語られるようになった」と。
実は昭和４４年９月、１８歳でのデビュー曲「新宿の夜」は思うようにヒットしなかったのだ。そこで２人は「新宿２５時間キャンペーン」を企画し、１１月８日にこの西向天神社で出陣式を行った後、２人で新宿の飲食街を２５時間ぶっ続けで流し回ったと言う。この時神主代行は「林家三平」が務めたと言う。
藤圭子の歌声といえば、私達年代には青春時代が懐かしく思い出されるのだ。あの暗い怠っぽい歌声が、そしてあの歌詞が何とも言えないのだ。
そこでじっくりあの時代を思い出したい方で、１時間４０分位の時間に余裕が有る方は是非とも次のYoutubeであの時代を十分に満喫して欲しい。

話は七福神から外れてしまったが、最後の７番目として「新宿御苑」近くの【太宗寺（布袋尊）】を訪ねた。ここで解散となったが、時計は３時過ぎを指しており、今日はしっかりと２時間歩いた事になるが、やはり西向天神社での諸発見は私にとって大収穫であった。