2021年8月22日の出来事、女子ゴルフツアー・CATレディース最終日、17番パー3で西山選手がホールインワンを達成、賞金500万円を獲得した。彼女は河本結選手の欠場によって繰り上げ出場してこの快挙だ。彼女自身のこの日のスコアは7ボギーで冴えなかったが、何とホールインワン賞金500万円は準優勝賞金を上回る金額で、本当の”値千金の1打”だったのだ。
そんなシーンをTVで観ていて、「そう言えば、私もホールインワンをしていたな」と思い出し、それをエッセイに書いていので私のHP内を探し始めたが、なかなか辿り着けない。確か私が長野県・伊那に単身赴任していた頃の出来事だった。とすれば私の一番最初のHP上に載っているはず。そのためには、3代前のHP画面にたどり着かねばならない。やっとのことで、そのエッセイは2003年2月作品【伊那美すず日記】の中に書かれていた事が分かった。懐かしくそのエッセイを読み返してみると、ホールインワンとは思いがけない事がいくつか偶然に重なって生まれることが思い起こされる。西山選手のように。
そこでこの名誉有る(?)ハプニングを簡単に読めるように、ここに《復刻版》として掲載しておこう。
2002年8月16日 場所は長野県伊那市 『信州伊那国際ゴルフコース』白樺コース17番ショート・ホール(145ヤード)にて午後2時45分頃その事件は起きた。
この出来事はゴルフプレイヤーでも一生のうちで体験出来ない人が殆どなのだから こんな記念的な そして嬉しい出来事をしてしまった私として あの瞬間がいつでも思い出せるように ここに書き留めておきたい。 今年の夏はバカに暑い。30℃を過ぎる日が何日も続き、この不景気の中、エアコンだけは快調に売れたというのだから 家電メーカーもお天道さまさまであろう。我パソコン業界は ITバブルの崩壊で パソコン需要も飽和状態を続け ずうっと不況が続いているというのに 羨ましい限りだ。
しかし毎年 お盆休みが近づくと 『さてどのように その休暇を過ごそうか』というテーマでチョイト頭を悩ませる。どのように過ごすかといっても 子供はすでに大人になってしまったので「夏休み どこかへ連れていって」とせがまれることもなく 今やワイフと二人だけの問題ではあるが 子供がいた頃からの習慣なのか 学校が夏休みに入る頃を迎えると落ち着かなくなるのだ。こんな不況下であるから 本来はじっとして「倹約道」を選択すべきなのだろうが、どうしても家でゴロゴロしているのも我慢が出来ないだろうなどと勝手に思い込み 結局はワイフと一緒にその休暇の過ごしかたを相談し始めるのである。
ワイフは 旅行をする場合「名所旧跡を訪ねる」、「ハイキング」「温泉旅行」とかにはさほど興味は無く、「ゴルフの旅」と言えば 文句無く一発で決まるのである。
今年の春先は 夏休みを利用して3年ぶりに前の駐在地「シンガポール」へ旧友S氏を訪ねながらのゴルフの旅でもと 新宿あたりの旅行代理店で旅行パックの情報集めを始めていた。S氏は 私のシンガポール駐在時代 日本料理屋「ちとせ」のオーナーで当時札幌から「毛がに」を直輸入、私の大好物がシンガポールで食べられる店という事から しょっちゅう通いつめ、メニューには無い「納豆ごはん」「生卵ぶっかけ・ごはん」「のりと味噌汁だけ」など勝手な献立の夕食をお願いし 大変にお世話になった方である。ゴルフはシングル・プレーヤーであり私のアドバイザーでもある。3年前にも4泊5日でシンガポール・ゴルフの旅を敢行しS氏には大変にお世話になっている。
それでは最も経済的にシンガポールにてゴルフツアーを楽しむ我々の秘訣を紹介しよう。
旅行代理店にてシンガポール・パックの情報を集め 安くて現地で自由行動の多いパックを探し出す。兎に角昨今の海外旅行は 準備されたパックにて出かけるのが最も経済的かつ安全に済ますベストな方法である。すなわち 往復のフライトと宿泊ホテルは そのパックを利用し 目的地に着いてから帰るまでは100%自由行動を取らせてもらうのである。しかしこの行動を取る為の重要な裏手続きが必要なのだ。
シンガポールのケースで説明しよう。チャンギ・エアポートに到着 税関を通過して指定された集合場所で待っていると現地添乗員が小型バスに乗って現れる。バスに乗こむと、片言の日本語でスケジュールなど確認事項、注意事項の説明を始める。そして予約されたホテルを巡回して行く。同じパック・グループとは言え ホテルのクラスによりパック料金も違う訳で ここで一緒に来たパック仲間連中はそれぞれのクラス別ホテルに別れるのである。ゴルフだけが目的の旅ではホテルは寝るだけの施設と割り切り一番安いクラスで十分である。この添乗員にS$30(凡そ2500円)を渡して「すまぬが我々は帰る日まで 完全に別行動させて貰います。最後の帰る日のホテル集合時間には戻って来ています。宜しく」と行動を説明し了解を取る。これは勿論グループで参加した以上、自分達の事情を旅行会社側に説明しておく必要がある訳だが、さて このS$30を渡す意味合いを解説しょう。
このような団体旅行では パック・スケジュールに組みこまれているコースの途中での「おみやげ屋」「免税店」では「案内した人数」に対して添乗員には「コミッション」が払われるそうだ。団体コースから我々は意図的に外れるのだから 抜ける人が添乗員にコミッションを払う必要が有るわけだ。これがS$30の理由である。
所で今年は「シンガポール近隣の島でのゴルフ」でもと『シンガポール・ビンタン島パック旅行』のパンフレットを抽出し、具体的に予算をはじき始めたが、しかしワイフが今ひとつ乗ってこない。その最大の理由は 長期に続く日本の経済不況は「今 そんなことをしている時期だろうか?」と自己反省をいだく様になり 遂には「私たちも今年は謹慎しましょうか」なんて殊勝なことを二人で言い出し始めていた。
7月に入り「今回はシンガポール行き中止」の結論を出し早速シンガポールのゴルフ仲間のS氏にその旨の連絡を入れる。すると早速S氏より次のような連絡が入る。
『そろそろ連絡があるかなと思っていた所でしたがそれは残念です。8月に来られた時に渡そうと用意していたホールインワン記念品を送ります。実は6月1日にセントーサ・サラポンコース 11番(138メートル)でホールインワンをやってしまいました。その記念に“ステンレス・マグカップ”と“魔法瓶”を送ります。』
さてビンタン島行きを中止したはよいが、それではお盆休みはどう過ごすか で再び悩み始めていたころ、名古屋の友人H氏から「そろそろ ゴルフでもしませんか」とお誘いの電話が入る。H氏は私の商社マン時代の同期であり 今では年に2~3回お相手頂くゴルフ友である。H氏がメンバーである伊那と名古屋の中間点 恵那山の南、瑞浪市にある『瑞陵ゴルフクラブ』で何度か一緒にプレーをしているが、「そうだ! 夏休みは ここにワイフを帯同しよう。そして私の弟も名古屋在なので一緒に誘おう。」と一方的な計画を思い立ちお盆休みのコース予約をH氏に依頼する。
ゴルフで名古屋までとなると、もう一つ近くでと欲が出てくる。ワイフには「一層のことそのまま伊那に上がって そこでもプレイすると言うアイデアはど〜お?」と提案。それに対しては「それではお父さんの部屋の掃除や衣服・寝具のチェックを兼ねてそうしますか。」と一発で決定。8月14日「瑞陵ゴルフクラブ」、1日空けて16日「信州伊那国際ゴルフクラブ」となった。このお盆の時期に伊那のゴルフコースが1週間前でも予約が取れるという本当にゴルフファンにとって恵まれた場所と言えよう。ワイフもお盆時期の新幹線での名古屋入りは超混雑と予測し 13日に伊那入りして翌日私と一緒に中央高速道路を使ってゴルフコースに向かうことにした。
このお盆休みに その事件は起きたのだ。どんなお盆休暇だったのか 私の日記帳から思い出してみたい。
■8月13日(火曜)
明日から会社は5日間のお盆休み。社員もそれとはなく落ち着かない様子。単身赴任者の中には 月曜・火曜を休みにして週末を繋げて9日間の休みにしてすでに実家に戻っている者もいるようだ。ワイフ 6時にバスで伊那市に到着 迎えに出る。その夜は市内の小料理屋にて乾杯。熱燗「杉の森」に二人 明日のゴルフがあることも忘れのりのりで飲みすぎか? 深夜のご帰還。初日からスケジュールは荒れ模様だが 大丈夫だろうか??
■8月14日(水曜)
朝4時 起床。岐阜県・瑞浪の「瑞陵ゴルフクラブ」へ向け出発。途中「恵那峡サービスエリア」に寄り”恵那ラーメン”にて朝食。寝不足と空腹が このラーメンで少し落ち着かせたか。6時45分 ゴルフ場に到着、すでにH氏と弟は来ていた。7時25分スタート。猛暑の中でのプレイ。山間コースでのショットの乱れは、昨晩の無謀を反省してもどうにもならない。全くゴルフにならないゴルフ。3時過ぎに帰路へ。途中で私の行きつけのスーパーにて 二人して980円の上寿司セットと枝豆、トーモロコシにきゅうりとトマト、寮に戻って冷たいビールで乾杯。
■8月15日(木曜)
早朝散歩で私のゆく散歩コースをワイフと。田んぼの「すずめ脅し」のパンパンと鳴る破裂音にビクビクしながら畦道を1時間の散歩。仙丈ケ岳、木曾駒ケ岳は雲の笠をかぶっていたが 二人ですがすがしい朝を満喫できた。今日は部屋の掃除と整理。100円ショップで購入した整理箱は大正解であり ワイフのお陰ですっきりと整理ができた。夕方 雨が降る。今夜は”諏訪湖・花火大会”だが気になる。部屋での夕食時外で「ポン」「ポン」と諏訪花火の音が聞こえていた。10時30分就寝。
■8月16日(金曜)
朝5時半起床。いよいよ伊那での盆休み最後の日だが 空はどんより曇り空。昨晩の夕食の残りをほおばり うまい!満腹! シンガポールのS氏から贈られた「魔法瓶」に冷水を入れて、7時伊那国際GCへ向かう。7時48分白樺コースのスタート。同伴者は東京から旦那の実家に来ていた奥様のYさん、そして横浜で材木商の社長をされているN氏。Yさんは毎日ゴルフの練習かコースに出ているうらやましい生活(?)の子供なしの年金生活者。今日は旦那が実家で草刈をしているそうな。ハンディは11の由。N氏は父親が購入した長谷村の外れの山小屋に家族で夏休み中でゴルフが好きなので一人でコースに来たそうな。体格がよくドライバーの飛ばしや。ハンディは15の由。
兎に角お上手なお二人に引っ張られながら 何とかOutは49。それも9番パー4(459ヤード ハンディキャップ3)で見事なパーを取っての結果なので喜びは大きい。そのさわかな満足感と緊張感が 「よし後半も何とか40台で」といきり立たせ昼食時にアルコールを一切飲まぬことに決めた。多分これは日本でのゴルフで初めての体験ではと思う。これまでは必ず「暑いから」とか「帰りは運転だから」とかの理由をつけて昼食時に「ビール」あるいは「水割り」「ワイン」そして冬は「熱燗」と必ずアルコール類を摂取していたように思う。
所がInに入っても相変わらずのゴルフでボギーペース。あと残すは2ホールとなった17番145ヤードのショートホール。少し打ち下ろしになるグリーンでティーグランドから横長のグリーンが見える。グリーン周りは右下がりでちょいと右に外すとコロコロ転がり落ちそうに見える。オーナーのYさんは綺麗なフォームで打つもわずかながらグリーンをオーバーしてエッジに。次が私の番。距離は135ヤード位とみて7番アイアン。いつものようにクラブを振りぬく。
気持ちよく、力も抜けてス~~~とボールがグリーン方向に飛び出た。しかしどうしたことか。ス~~~と上がって行くボールがゆっくりスローモーションで見るように見えるではないか。確かにピンに向かって真っ直ぐに それも理想的な放物線を描きながら。小ちゃくなったボールはグリーン上に落ち2~3回バウンドをして ピンの方向へ。暫くの静寂の後、ボールがピンに当たる音がしたかと同時にカップの中に落ちるあの「カラン」という乾燥した音が聞こえたのだ!!N氏が「あっ!! 入った!!」と言うと 大声でYさんが「ホールインワンよ!、ホールインワン!」と自分ごとのように飛び上がっていた。それからレディースティーに移動し 打とうとしていたワイフにYさん曰く、「ダンナさん ホールインワンやっちゃったわよ!」 しかしワイフは キョトン。
やってしまった当のご本人私も「何が起きたのか。普通と何も変わっていないではないか。」と思いながらグリーンに向かって歩く。しかし グリーンに上がり 真っ直ぐカップに向かい 恐る恐るカップの中を覗き込み白いボールがあると にわかに興奮が襲ってきた。そしてそのボールを拾い上げる時 初めて「あ~~~やってしまった!!!!」と実感した。
この白樺コースIN17番を動画で御覧ください。
私は何と幸せなのだろう。普段は年に4~5回のゴルフしかしない私が(それでも今年は珍しく平均月一回ゴルフになるか)、技術もなく100前後ゴルフの私になぜ神様はご褒美をくれたのか。
・「お盆」でご先祖さまからのプレセントか? そうだとしたら何ゆえか?
・シンガポールからの「魔法瓶」が本当の魔法を掛けたのか??
この日 午後6:25発の中央高速バスにて帰京。案の定 お盆休暇ラッシュにぶつかり5時間の旅となり、我が家に到着したのは深夜零時チョイト前でした。
それから間も無くして その17番ホールのスポンサー『麒麟ビール』から右の手紙を添えて120本の缶ビールが送られてきた。そして私は 限られたゴルフ仲間にほんの記念品として「高遠焼き」を送らせて頂いた。次のような簡単なメモを添えて。
『めっきり秋らしくなった今日この頃 如何お過ごしでしょうか。
今年の夏休みは如何でしたか? 小生は 10,000ラウンドに1回の確率、あるいは4,000人に一人と言われている偉業“ホ~~ル・イン・ワン“を達成することが出来ました。
これは一重に一緒にゴルフのお相手を頂く友人に恵まれ 楽しい機会を重ねてこられた賜物でございまして その過程で『幸せな贈り物』を頂きました事をここにご報告させて頂き、ゴルフの友に深く感謝の意を表し 小生より ささやかではございますが、伊那谷より御礼の気持ちを贈らせて頂きます。
<ホール・イン・ワン>
平成14年8月16日
信州伊那国際ゴルフクラブ
白樺コース 17番 145ヤード
使用クラブ 7番アイアン
これからも 一層ゴルフに精進し 皆様のご迷惑にならぬように努力して参りますので 引き続きお相手を切にお願い申し上げます。
ご健勝をお祈り致します。 敬具』
ところで この時のスコアは49・48の普通の成績だったのです。 ハイ!!
《完》